カテゴリー「書籍・雑誌」の3件の記事

「精霊の守り人」上橋菜穂子

 ひさびさに小説を読みました。

「驚異の発明家の形見 上・下」(アレン・カーズワイル/創元推理文庫)
 カバー絵に妙に惹かれてジャケ買いならぬカバ買いしたところ意外と楽しめました。おおまかに、上巻は多才な少年技術者クロードがその尊師(アベ)の元で成長してゆく様を、下巻はクロードがある発明に傾倒する様が書かれてます。創作物の鑑賞の仕方、捉え方は鑑賞者自身の経験や思想に大きく左右されるものですが、あっしの場合下巻のエピソードがいまはまってるあるものをイメージさせられて、フランス革命前夜と時代こそ違えど似たことをしようとしてたクロードにかなり親近感がわきました。親近感がわきすぎて、クロードが歳をとることが悲しく思えてしまいます。いつまでも少年のままでいてほしい。

「精霊の守り人」(上橋菜穂子/新潮文庫)
 出典を忘れちゃったんですが、荻原規子の「空色勾玉」、小野不由美の「十二国記」と並んで、この本が日本人女性作家による三大ファンタジーの一つであるとどこかで書かれてあったので、じゃあ読んだことのないこれを読んでみようかと買ってみた次第。けっこう人気のあるシリーズみたいで、単行本では続編が十巻まで出てます。初版は1996年。
 ライトノベルのファンタジーものにありがちな読者に媚びる表現はありません。スケールは飛びぬけて大きくはないけどしっかりとした設定に基づいて書かれてて、話が前に前に進む感じで飽きさせず、一気に読ませます。戦う女性が描かれる点でも空色勾玉、十二国記と共通点があります。文庫化されれば、続きも読もうかな。
 あと背景設定、専門用語の使い方にFFXIの魔法大国ウィンダスを思わせるものがあって、そういえばゲームという媒体をとってはいるもののドラクエもFFも和製ファンタジーの系譜上に存在するのだなと改めて思った。

 ってこの作品、今年アニメ化もされてたのだな。その宣伝効果で、あっしの耳に入ってきたのかもしれない。

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「トム・ゴードンに恋した少女」スティーヴン・キング

 メルヘンなタイトルからは予想がつきませんが、少女が独り森で遭難する様子をリアルに描く話です。
 キングの文章には、登場人物の仕草や言い回し、地の文章にも、作中人物への愛がにじみ出てることがあって、どんなに救いようのない状況におかれても、作中人物が誰かに見守られてるような不思議な印象を受けます。もっともこれはあくまで印象であって、実際には破滅してしまうことも少なからずあるのですが。
 キングが少女トリシアを救うのか、見放すのか。トリシアの描写には例によって愛が感じられますが、しきりに後者を示唆する伏線も出てきて気を抜けません。

 ところで、9歳のトリシアが学ぶのは、

 世界には歯があって、油断していると噛みつかれる。

ということです。人間なんて自分ではうまく生きてるつもりでも、ふいに噛みつかれ、飲みこまれ、消えてしまう生き物なんです。そこまでわかってても、だからこそいまこの一瞬を大切に生きなきゃという刹那主義に至るほどは勇気が出せず、ある程度は未来に向けた努力をし、ある程度はそんな努力なんて何にもなりはしないと冷めた目をしながら、どっちつかずな生き方をするのもまた人間ですね。

 あっしが9歳のころ学んだのは、

 世界には胞子が舞っていて、油断していると放置していた水彩絵の具セットに生えてくる。

ということでした。


 以下、ややネタばれ。


 1998年6月初めのアメリカメイン州付近が舞台なんですが、トリシアがリュックに忍ばせてたのは、ゲームボーイとウォークマン(カセットテープ版)でした。あっしも歳をとってきたようで、98年ってつい最近だとしか思えないんですが、まだNintendo DSはもちろん、iPodも出てない頃です。
 Wikipediaを見ると、98年ってけっこう昔なのだな。郵便番号7桁化。長野オリンピック開催。タバコCM全面禁止。和歌山で毒カレー事件。iMac発売。夜空のムコウミリオンヒット。モーニング娘。デビュー。ドラマのショムニ放映。ときの総理は橋本龍太郎、アメリカ大統領はクリントン。

 トリシアは山菜のぜんまいを普段から「美味しい」と思っており、野菜があまり好きではない兄も「ぜんまいだけは食べた」そうです。あっしが同じくらいの頃は好き嫌いが多くて、山菜の類はどちらかというと勘弁願いたい食べ物でした。嫌いな食べ物も食べられないことはないんですが、なかなか飲み込めず食べるのが非常に遅くなり、そうじの時間が始まってもまだ席に座ってたりするわけです。リミットは5時限目の始まりのチャイム。もう間に合わないと見切りをつけると、コッペパンはビニール袋に入れてランドセルにしまいこみ、食器類はカチャカチャ音を立てて大急ぎで給食場に運びます。ここでよくあるのが、はっちゃけすぎて牛乳瓶を落として割るという失敗です。
 何の話だっけ。そうそう、驚いたのは、ぜんまいがアメリカにも生えてて、食用になってるってことです。和食ブームの影響かなと思うんですが、案外昔からアメリカでも食べる習慣があったりするんでしょうか。

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「みんな元気。」舞城王太郎

 文庫で出てたので読んでみました。
 表題作は基本的には中学生女子の私小説でありながら、魔術的リアリズムのエンジン全開で、奇抜な話がコンスタントに披露されます。おーすげーとか心の中で声出しながら読みふけってしまいました。なんて贅沢なテキストなんだ。
 通勤途中にもすきあればポケットから取りだして読んでました。新宿駅は地下鉄を降りてから地上に出るまでに長いエスカレーターを3本乗り継ぐんですが、ここが読書に最適です。エスカレーターが終わると開いたページに指を挟んで、早歩きで次のエスカレーターに進みます。このときはもう、ヴァーチャルな世界に片足つっこんだまま半ば自動的に足が動いてます。対向する通勤ピーポーを無意識に左に右に避けつつ、もはや読書のために歩き、読書のために休む、そんな機関と化してました。
 こんな感じで熱中してたらすぐ読み終わってしまい、肥大した読書欲をぱこんとくじかれ、ちょっといまくすぶってます。
 これ、単行本だと5つ短編が収録されてるのだな。全部読みたいけど買いなおすのもあれだし、どうしてくれよう。

 ※と思ってたら他の2編も分冊で文庫化予定らしい

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