秋葉原の通り魔事件、犯行の直接の動機は仕事でのいさかいにあったことがわかりつつあるようだけど、企業が正社員の数を極力減らし、いつでも「切れる」派遣社員で補おうとする方針を持つのは何も犯人のいた会社だけの話ではなく、やるせない気分になることはあっしにもあるし、愚痴を言うこともある。だけど鬱憤を晴らすのに通り魔をする神経は異常で、非道で、許されない。
というのが月並みだけど正直な感想。
で、犯行に至った社会的背景の分析はされるべきだし、対策が施せるなら施すべきだとも思うのだけど、レベルの低い分析が各紙に載せられて、読者の間で話題になっている。ゲーム好きだった犯人が、凶器に「ダガーナイフ」を選んだのはゲームの影響だという内容だ。
一番ひどいのは中国新聞の次の記事。携帯サイトの見出しでは「●ゲームのアイテムが凶器に。ダガーナイフ。両刃で高い殺傷能力、緩い販売規制。」と、ゲームのアイテムが凶器だと断言している。
以下、→【秋葉原通り魔事件】凶器のダガーナイフ 高い殺傷力より引用。同記事は産経ニュース等にも転載されている。
「高い殺傷力、販売規制弱く 凶器の「ダガーナイフ」 '08/6/9
秋葉原の無差別殺傷事件で凶器に使われた「ダガーナイフ」。両刃で殺傷能力が高いが、ほかのナイフと同様「販売規制はないに等しい」(刃物販売業者)のが実情。テレビゲームの武器としても頻繁に登場、ゲーム好きの面を見せる加藤智大容疑者(25)をひきつけた可能性もある。
ナイフなどの販売業者によると、正当な理由のないダガーナイフなど刃物の携帯は銃刀法で禁じられているが、購入に関する取り決めは、業者の自主判断に委ねられているのが実情という。
自主規制の動きは一九九八年、栃木県で中学教諭が生徒にナイフで刺殺された事件などを受け強まったが、刃物店の同業組合に加入しないマニア向け護身具ショップには適用されない。栃木の事件で使われたバタフライナイフは全国で「有害玩具類」に指定されたが、今でもネット通販で簡単に購入可能だ。
あるナイフショップ店員は「十八歳未満にはナイフは売らないが、成人には観賞用に使うと信じて売っている」。「堺刃物商工業協同組合連合会」(大阪)の味岡知行専務理事は「最後は購入者のモラルに頼らざるを得ない」と強調する。
ダガーナイフは、有名なゲームソフト「ドラゴンクエスト」などにも「アイテム」として登場。専門誌「ナイフマガジン」の稲葉博昭編集長は「青少年に刃物の恐ろしさをもっと教え、きちんとした認識を備えさせる必要がある」と語った。
」
この記事の、分析が甘いと思えるのは次の理由による。主にこの記事を書いた記者向けに、薀蓄をたれながら指摘してみよう。
(1) ダガー(Dagger)は西欧に古くから存在する武器。当然ながら、ゲーム以外のメディア、小説、映画、アニメにも数多く登場する。投げることに特化したスローイングダガー(Throwing Dagger)が有名かもしれない。
ダガーは「短剣」という訳され方をすることもある。この呼び名であれば、「ダガーナイフ」よりも通りがよいはずだ。そもそも犯行に使われた武器が「短剣」という名で売られていれば、何かのメディアとの関係を指摘されることなどあっただろうか。
(2) ドラクエはロールプレイングゲーム(RPG)として分類されることの多いゲームだ。RPGでは、その始祖「Dungeons & Dragons(1974年)」ですでに、ダガーが盗賊、魔法使い向けの装備としてリストアップされている。以降RPGがコンピューターで作られ始めてからも、Wizardry、Ultima等の大御所を含めて、中世西欧風ファンタジーものには再三登場している。
本来とどめを刺すための武器であったダガーは、RPGでは正面からの攻撃をあまり得意としない者が使う武器として定着している。
ドラクエもこの系譜上にあるゲームだが、あっしにはなぜか「ダガーナイフ」の登場した記憶がない。
未プレイのドラクエ7か8に出ていたのかと思い攻略サイトで調べてみると、数多く登場する武器のうち、名前でダガー系だとわかるのはシリーズ通して「ダガーナイフ」「アサシンダガー」「イーグルダガー」の3つだけのようだ。
アサシンダガーはドラクエ3と7のみに登場。ダガーナイフとイーグルダガーは8のみに登場する。どれもゲームを進めればより性能の良いものが手に入り、店に売られるような位置づけのアイテムだ。
ドラクエをダガーナイフの登場する代表的なゲームとして紹介するには不十分である。
(3) ドラクエは、ダガーの扱い方を学べたり、ダガーを使いたいと思わせるようなゲームではない。戦闘の様子を具体的に描写しないからだ。描写といえば、武器を振った軌跡が描かれ、ピョロリとかテルルといったシンセサイザーの音が鳴ることと、攻撃が当たれば「へたれの攻撃! スライムに1のダメージ!」、外れれば「へたれの攻撃! ミス!」という文章が表示されることぐらいだ。攻撃が当たれば敵の体力、ヒットポイント(HP)という数値が減る。
ドラクエでは、特定の攻撃力を示す記号として「ダガーナイフ」という名が使われているに過ぎない。
上記3点から、記事の書き方が軽率であると思う。記事本文しかり、見出しの要約の仕方しかり、である。「犯人がドラクエでダガーナイフに興味を持ったんだって!」あるいは「ドラクエは、犯人が使ってたダガーナイフが出てくるゲームなんだって!」といった誤認識、または偏見を誘う、印象操作が目的だととられても仕方がない。
殺傷事件があった際、犯人がゲームを嗜む習慣を持っていなければ凶器が何であれスルーされるのに、習慣があれば「ゲームの影響だ」と脊髄反射的に反応するのは、ある意味病気だと言える。
この記事を書いた記者には1年ほど、むしろゲーム漬けになって意識を改革することを提案する。某教授の書いた「ゲーム脳の恐怖」のような、ゲームだけが脳に悪影響があるなんていうとんでも説からは解放されてほしい。いま思いつくだけで少なくとも10タイトルは、ゲーム嫌いの人にじっくりプレイしてほしいゲームがある。小説や映画、ドラマなどのフィクションを楽しめる人なら楽しめると思うし、ゲームならではの新しい楽しみ方があることにも気がつくかもしれない。
ちなみに読売新聞の記事では、「東京・秋葉原の無差別殺傷事件で使われた『ダガーナイフ』は、人気ゲームで主人公が使う武器として登場するなど、若者の人気アイテム」という書き出し。主人公が使うということは、ドラクエではない何かを特定しているようだ。やれやれ。
→「ダガーナイフ」銃刀法改正も検討へ/読売新聞
繰り返しになるが、犯人の行動はドラクエの影響有無に関わらず、絶対に許されないものだ。
こう書くと、字面的にすんごくしょぼい話を熱弁しているようだがそんなことはない。うん、そんなことはないぞ。
犯人には然るべき処罰がされるべきだし、再発防止のためにも、要因分析は必要だと思う。でもてきとーな分析ならしないほうがましだ。ただそれだけが言いたい。
最後になったが、被害に遭われた方のご冥福をお祈りする。
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